大量破壊兵器を手にした男は破滅へと加速してゆく《前編》

外が薄暗くなってきた頃だったでしょうか。
自宅のトイレの便座に腰掛けて,何とはなしに床をながめていると,1ミリ程度の小さな蟻がふらふらと歩いていたので,おやおや,どこからか迷い込んだのかなあと思いつつ,その儚げな命をトイレットペーパーで“むぎゅっ”とつまんで便器に流したのです。


トイレを出て廊下に目をやると,今度はゴミ箱付近に同じような大きさの蟻が15匹ほどたむろしている姿を見つけました。
くっ・・・なんたること!
狼狽した私は,素早い動きでトイレに戻り,トイレクイックルを武器に,私のプライベートスペースに無雑作に足を踏み入れた不埒な輩をつまんでは(ゴミ箱に)投げ,つまんでは(ゴミ箱に)投げ,という動きを数回繰り返し,跡形もなく成敗してやったのです。


ひとときの平穏が戻ってきたかのようにも見えたのですが,嫌な予感がどうしてもぬぐいきれなかったため,廊下の電気を点け,しゃがみこんでゴミ箱をずらし,床の様子を注視してみると,30匹から50匹ほどの蟻の大群が“ぞわわわゎ〜”と蠢いているではありませんか。

ギニャー!!!

私は声にならない叫び声を(心の中で)あげ,喪黒福造に「ドーン!!!」と威圧された客のごとく体中に衝撃が走り,魂が後方へとよろめきました。

アパートからこのまま逃げ出したくなりそうな衝動をぎりぎりで抑え込み,蟻の歩む先を見てみると,彼らは玄関の方へ向かって長い行列をつくっていました。
軽く見積もっても,その数100は下らないでしょう。
百鬼夜行さながらの不気味さと死の行進さながらの不吉さの両方を兼ね備えた,それはそれはおぞましい行列でした。

行列の放つ負のオーラをまともに浴びせかけられた私は,なかなかおさまることのない鳥肌を身にまといながら考えました。
逃げ出したい,が,この家には自分一人しかいないのだ。
彼らに立ち向かうことのできる人物は,頼ることのできる人物は,そう,結局は自分一人しかいないのだ。
ここで自分がやらずに誰がやるというのだ!!
…南無三っ!!!
こうして,私は覚悟を決め,動き出したのです。
(続く)