聞こえる

ふと,おでんを食べたくなってファミリーマートに行ったのですが,バンの置いてある棚の前を通ったときに「プリン風味メロンパン」という新商品が目に入ったのです。

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鐘が鳴る
鳩が飛び立つ
広場を埋めた群衆の叫びが
聞こえる 
そもそも そもそも
メロンパンだって
メロン風味パンではありませんか

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ハッと我に返った私は,思ったのです。
そうです,落胆するのはまだ早いのではありませんか。
何か忘れていませんか。
メロンパンの中には,パンの中にメロンクリームを入れた“上位メロンパン”と呼称すべきパンが存在することを。
それは誰にもメロン風味パンと呼ぶことはできないでしょう。
メロン成分をふんだんに使用しているそれこそが正真正銘のメロンパンではありませんか。
きっとプリン風味メロンパンの中にはメロンクリームが詰まっているのではありませんか。


そう自らに言い聞かせながら「プリン風味メロンパン」を手に取って,原材料名を確認したのですが,そこにはメロン成分に関連する文字は一文字もありませんでした。
メロンクリームなど詰まってなんかいなかったのです。
プリン風味メロンパンの中に詰まっていたのは,虚無と欺瞞でした。


動揺を隠しきれない私は,現在の時刻を確認しながら平常心を取り戻そうと考えました。
そこで腕時計を見るために,左腕のシャツをスッとまくって目の高さまで腕時計を近づけた,
つもりだったのですが,
なんということでしょう。
そこには本来あるべき時計は見あたらず,ただただ血色の悪い私の左手首が存在するのみでした。

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陽が落ちる
油泥の渚
翼無くした海鳥のうめきが
聞こえる 
あなたは
その左腕をどうするつもりですか
何食わぬ顔で
時間を確認した体(てい)で下ろすつもりなのですか

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