お正月だよ!ヒゲ山日記スペシャル

ちょっとアレな文章の続きです。

星を継ぐもの・その2〜ホク子悲しみの時〜

②ホク子悲しみの時

高校を卒業すると、実家から数百キロ離れた地方の大学へ進んだ。
本当は地元の大学に行きたかったのだが、そこでは私の高校時代のうわさを耳にしている人が少なからずいるはずなので、血なまぐさい伝説から逃れようと、しかたなく家からだいぶ離れた第2希望の大学に決めたのだ。


最初は慣れない一人暮らしのために、憂鬱な日が続いたのだが、大学1年の冬、生活は激変した。
私に彼氏ができたのだ。相手は同じ教育学部の先輩で学年は2つ上。物憂げな目元と、ケン五朗という名前が祖父にちょっと似ている。
それまで、両親や祖父に異性との交流を禁じられてきたため、まともに男性と会話をしたことの無かった私は、彼との出会いにより日々の生活はこれまでにないぐらい色鮮やかなものへと変化し、ああ、これが恋というものなのか、などとしみじみ思ったりした。




私は今、大学の図書館で彼を待っている。講義で出された課題が難しいため、学部の先輩である彼に、教えを請うつもりだからだ。
約束の時間が近づき、腕時計を確認したとき、肩をポンポンと軽く叩かれたので、私は勢いよく後ろを振り向いた。
すると、慣れ親しんだごつごつとした指が私の頬を「ぷにゅ」とついた。
「ははは、引っかかった」
無邪気に笑う彼の顔がそこにあった。
私は、わざとらしく怒った振りをして、
「もーう。ケンちゃんたら!」
と顔をぷくーとふくらませながら、彼の眉間をちょんとつついた。


その瞬間だった。
高校時代のあの忌まわしい感触が、指先から全身へと電流のごとく駆け巡ったのだ。
私は取り返しのつかないことをしてしまったと悟り、絶望のあまり足元がふらつき、立っていることさえ困難な状態になった。
私の異常な状態に気づいた彼は「どうしたの?」と声をかけてきたのだが、返す言葉が無かった。
「一体どうしたっていうんだ。僕が何かおかしなことをしたというのなら謝るよ」
しばらく黙っていると彼はもう一度怪訝そうな顔で聞いてきた。もちろん彼は私が北斗神拳の継承者であることなど、知る由も無い。
私は声を振り絞って、
「そうじゃないの!私、秘孔をついちゃったの!あなたはすでに死んでいるのよ!」
「ええっ?何を突然おかしなことを・・・ぉぉおおっ!ひでぶっ!!」
断末魔の叫びを上げると彼の顔は、レンジでゆでたまごを作ろうとして失敗したときの卵のように、勢いよく破裂した。
その瞬間私は「ああ…!」と声を漏らしたため、口の中に彼の顔の肉片や体液がわずかに入り込んだ。


初恋の味は錆びた鉄の味がした。


③ホク子旅立ちのとき(たぶん気が向いたときにつづく)