なんか釈然としない英会話

 私の名はヒゲ山。人呼んでヒゲ山。泣いた赤子を瞬時に黙らせるほどの男っぷりを見せるのではないかとか巷で風のうわさになっていると小耳にはさんだよと言われることを想像するほどの私でも、ただ一つだけ苦手としているものがある。
 それは外国人に異国語で話しかけられることだ。それも唐突に独特のテンションで話しかけられるのが嫌だ。
 あと、ついでに言うとゴキブリも嫌いだ。あの形状にスピードと飛行能力がキモイ。それから強いて言うならば暗闇が嫌いだ。何か潜んでいそうで。あと、寒さと暑さが嫌いだ。地球よ公転するな、お前は黙って自転だけしていればいいんだよ!って思っちゃう。
 そうそう、これを忘れちゃあいけない。赤飯に混ざっている小豆が超ムカツクんだよね。あの小豆のひび割れ具合といい、丸みといい、つやといい、ダンゴ虫みたいじゃない?どうしても、ごはんに混じっているダンゴ虫をむしゃむしゃと食べているのを想像してしまい、オエーってね。オエーってね。なっちゃうのね。
 さて、話を戻そう。私は以前外人に話しかけられたときに、非常に釈然としない思いをしたことがあったのだが、今回ここでそのことを紹介して、皆さんと共にこの国の行く末とか珍プレー好プレーの略し方とか昨今のお笑いブームなどについて思いをめぐらせ、有意義な時間を創造したいと考える。
 事件は土曜の夕暮れ時、買い物を終えた私が駅前の通りを歩いているときに起こった。



ヒゲ山:なんか、向こうから怪しい外国人が近寄ってきてるけど、話しかけられたら嫌だなあ。

外国人:アーハーン、Excuse me? ウーフン。

ヒゲ山:ひぃぃぃぃ。来ましたよ、来ましたよ。話しかけられましたよ。
    落ち着け、落ち着くんだヒゲ山。今こそ学生時代に勉強してきた英語を活用するべき時なのだ。

外国人:My name is ホナウド. I〜

ヒゲ山:Hey!Stop,stop.O.K?Sorry,sorry.I can not speak English. グッバーイ、センキュー。

ホナウド:おい、ちょっと待てヨ兄ちゃん。ファっQ!

ヒゲ山:ひぃぃぃぃ、何ですか。

ホナウド:あなた、そこそこ、英語を話せそうじゃないですか。
     それなのに、いきなり話せませんと言って逃げ出そうなんて、ひどい人じゃないですか。
     ファっQ!

ヒゲ山:あぁぁぁぁ、ごもっともです。ははぁー。

ホナウド:確かにね、郷に入っては郷に従えと言うようにね、日本に来るからにはそこそこ日本語を
     話せるようにしておく必要というのはあると思いますよ。
     それでもね、わたしのように日本に来て日が浅い外国人というのはほとんど日本語が
     話せないわけだから大変困っているのですよ。わかりますかこの気持ちが?
     それなのに、アナタときたら、いきなり顔を見てコミュニケーションしようということを
     放棄してしまったじゃありませんか。私ははらわたが煮えくりかえる思いだよ。
     全く日本の都会の風は厳しいゼヨ。

ヒゲ山:すいません。すいません。私ももっとできる限りのことをするべきでした。 
    今後は最初から安易な道を通ろうなんて甘い考えを捨てることにします。

ホナウド:うむうむ。オーケーオーケー。そこまで反省しているならノープロブレムよ。
     日本のことわざにもあるじゃないですか。雨降って地固まるってね。
     この経験を発展的に生かせばよいのですよ。

ヒゲ山:ああ、なんてあなたは偉大な人なんでしょう。どうすればあなたのように強くなれるのですか。

ホナウド:私に興味がおありですか。それではこれを読みなさい。

ヒゲ山:なんですか、これは。「10分でわかるホナウド教の経典について」…?ふむふむ。
「天地と一体になり、相手と一体になるのデス。感じるのだ隣人とのつながりを。この宇宙とのつながりを。心を開け…めざめよ!わたしたちはひとつ。命という一つの生き物だ。私たちは宇宙であり神なのだ!信じるのだ私の言葉を…入るのだホナウド教に入るのだ!目覚めよ!」
    ああ、なんて心に響く言葉なんでしょう。わかりました。私もホナウド教に入りたいと思います。
   しかし、あれですね、こういうのってお金がかかったりするものじゃないですか?


ホナウド:オーケーオーケー。ノープロブレムね。安心してください。
     信仰心を持つ人から金をとろうなんて野暮なことはしませんよ。
     ただね、こちらに取り出しました幸せの壷。これをお渡しする場合は、
     ほんの気持ち程度の謝礼はいただきますけどね。まあ、それぐらい人として当然でしょうね。
     ちなみにほとんどの人は100万円の謝礼金を渡してくれますけどね、そういった
     人たちはみんなみるみるうちに幸せになって、たくましいからだを手に入れて、
     異性にもモテモテのうはうはですよ。

ヒゲ山:なんと!それはすばらしい。その壷いただきます。

ホナウド:じゃあね、私たちは毎週この地図にある場所で集まっていろいろやっていますんで
     興味がおありなら、次回からこちらまで顔を出してください。

ヒゲ山:わかりました。ではこれからもよろしくお願いします!



ヒゲ山:ああ、なんてホナウドさんは寛容で器の大きな人なんだろう。
    私は今日のこの出会いで人を思いやるという大事なことを思い出すことができた。
    これからはホナウドさんのような日本に来ている日本語の苦手な外人には、積極的に
    英語で話すように努力しよう。
    そしてホナウド教に入りホナウドさんのような立派な人間を目指そう。
    ついでに幸せの壷を手に入れて幸せになろう。



    それにしても、このなんとなく釈然としない思いはなんなんだろう。