空気人形を見てきた

空気人形が映画化されているらしいという話を聞いて,業田良家ファンとしては,是非見なければなるまい,と
ずっと思っていたのだけど,その一方で,「20ページそこそこの原作を約2時間の映画にするってどうなの?」
という思いもあり,「見たい!ああっ,でも見たくない!」みたいな気持ちの間で揺れ動いていたのです。
なんというか,空気人形が収められている連作短編集『ゴーダ哲学道』の各作品というのは,珠玉の詩を漫画化
したようなもので、無駄をそぎ落として、原作それ自体で完結している作品なので、何も映画にして、いろいろ
と肉付けして120分に引き伸ばさなくてもいいじゃありませんか、と思っていたのですよ。


そんな思いだったのですが、映画館の入り口に張ってあるボスターをふと見て、空気人形役があまりにも空気人形
だったのに驚き、ネットで調べると、『リンダリンダリンダ』で韓国からの留学生役を演じたペ・ドゥナさんだ
ということを知り、ますます興味を持ち、「これは見なければ!!」という気持ちに傾いて見てきたわけなので感想
を書く次第なのであります。
長くなりそうなので箇条書きです。以下ネタバレありまくりなので、未見の方は気をつけてください。

  • 良かったところ。

・主要キャストが良い!!ペ・ドゥナの透明感のある美しさと空虚感漂う演技、たどたどしい日本語も「心持ちたて」という演出にプラスに働き、はまっていた。板尾創路さんの役もはまっている。自然な演技で、空気人形の持ち主の屈折した部分や優しさ寂しさを静かに表現していたように思う。漫画では、顔も出ずセリフのみのちょい役だった空気人形のオーナーがこんなに重要キャラになるとはっ・・・。でも、なぜだか、人形職人役のオダギリジョーには、若干違和感を感じた。なんだろう・・・心を持った空気人形に出会った時に、「ちょっとは驚いたっていいだろう」「受け入れるの早すぎだろう」という感想を持ってしまったので、その後の演技が不自然に見えたっていうのがあるかもしれない。
・新たに加わったストーリーのうち、3分の2くらいまでは良かった。特に、人形のオーナーにスポットを当てたのは面白かった。オーナーは、人形が心を持ってしまったことにずっと気づかないままだとばかり思っていたので、いい意味で裏切られた。
・原作では描かれなかった、人形が心を持つ瞬間の映像が面白かった。また、原作でも有名な、アクシデントで主人公の身体の空気が抜けてしまい、純一(原作ではF夫)に空気を吹き込んでもらうシーンが予想したとおり官能的に撮られていて良かった。しぼむ様子や膨らむ様子も、これぞ映画!という感じで映像として面白かった。

  • 悪かったところ。

・原作の読後感に比べて、映画の読後・・・じゃない、視聴後感はいいものではなかった。おそらく理由は二つあって、一つは、原作ファンとして肉付け部分、映画独自の解釈やストーリーに受け入れがたい部分があったこと。特に、ラストシーンで、原作では、「心をもつことは、せつないことでした。でも青空(以下略)」(←原作が実家にあり、記憶を頼りに書いているので、間違っていたらあとで直します。)で締めており、「でも」の部分を一番伝えたかったんだと思うのだけど、映画では「心をもつことは、せつない」の部分ばかりが印象に残ってしまい、ほとんど救いを感じられなかった。
原作でも空気人形が結局はごみになるのは変わらないけど、主人公は心をもったことをかろうじて後悔はしていない(と思う)んですよ。映画でもそこをもっと明確に表現して欲しかったです。いくらイノセントで無知だからといって、好きになった人を切ったあげく、ごみにしちゃったらいかんですよ。(もう一度見たら感想がちょっと変わるかもしれないけど)一応ストーリー上大きな破綻があるというわけではないと思うけど、このシーンが加わったせいで、作品としてのメッセージが散漫に感じられたので、このシーンは不要だったんじゃないの?と思いました。映画として最後に盛り上げるために、悲劇入れとけ!みたいな意図があったのか?と邪推してしまった。
もう一つの理由は、扱っているのが空気人形だけあって、映画でリアルに表現すると生々しいシーンやえげつないシーンが多い点です。原作ではその点、直接的な描写は避けている上、業田さんの絵だからこそ、安心して読めるというのがあると思います。絵本のような・・・というと適切ではないかもしれないけど、漫画的な絵、漫画というフィルターを通しているからこその読後感の良さはあると思います。こんな良い原作を使った映画をR-15指定にしておくのはもったいない。
・序盤から中盤にかけての1時間近くは、話にあまり大きな動きがないため、ちょっと退屈だった。思わず腕時計を確認して「あれ、まだ1時間しか経ってないや」と思ってしまった。2時間はやっぱり長すぎたのでは・・・と思った。

  • その他

・私の中でペ・ドゥナは『リンダリンダリンダ』の韓国からの留学生(高校生)役のイメージが強かったので、映画のそこかしこで自然に裸体が出ていたので、びびった。
後で調べたら、30歳だということを知り、「ああ、なんだ30だったのか・・・え、30だったの!?」と再度びびった。
・単に私の解釈力に問題があるだけなのかもしれないが、終盤に、純一が空気人形に空気の出し入れをさせて欲しいと頼む意図がよくわからなかった。
・結論としては、新たに加わったキャラやストーリーに見るべき点はあるけれど、終盤が残念。主要キャラの演技が秀逸でこれだけで見る価値あり。原作を知る人間としては、こういう解釈もありなんだろうけれども、原作の魅力は超えていないなあ、という印象でした。