テクニシャンコーヒーおやじ

試験も終わったことだし、とんかつでも食うかーという思いで胸一杯だった私は、この日
近所のやわらかとんかつのお店へと行きました。
普段は際限なく増え続ける体重と体脂肪におそれをなして、高カロリー食は敬遠していたのですが、
試験期間前2日ぐらいは、飲まず食わず寝ずといった状態であり、普段よりも体重が3キロほど減って
しまったがために、満を持していざとんかつ!というわけです。


そこの豚カツ屋は食後にコーヒーを出してくれるのですが、そのタイミングが毎度毎度絶妙なのですよ。
最後のとんかつのひときれを口に入れてふぅーと一息ついたら
即「はいどうぞーコーヒーです」ってな感じなので、これだけタイミングが絶妙ですと、常に食事中も
監視されているのでは・・と逆に心配になってきます。


そこで私は何度か実験をしてみました。
コーヒーおやじは私の食事の様子をどのようにうかがっているのか、という点を意識しながら食事を
すすめるわけです。
1回目のときは、私の皿を横目でちらちら、と確認しながら数分おきに確認しているのが見えました。
そして、はしをおいた様子を見計らって、奥にいる従業員に向かって
「おーい、○番カウンターさんコーヒー!!」と声をかけているようなのです。


実験2回目のときはカツ丼を頼んだのですが、コーヒーおやじがちら見を繰り返しているのを感じながら
頃合いを見計らって、いかにも食べ終えたかのようにカツ丼のふたをしめうつわを横に移動して
「ふぅー」と満足そうに一息つきました。
するとこの様子を感じ取ったおやじは「○番カウンターさんコーヒー!!」といつものように従業員に
声をかけます。
しかし、このときいつもと違ったのは私がみそ汁と漬け物をたくさん残していたという点です。
「ふぅー」と一息ついた後に、残りの漬け物とみそ汁に手を付け始めると、おやじはあわてて
「カウンターのコーヒーまだ!」と声をかけ直しました。
どうやらおやじさんは常にしっかりと見ているわけではなく、客の全体の様子や食器の音など、視覚、聴覚を
駆使して感じ取っているようなのです。
だからこそ、私のフェイントにひっかかってしまったのでしょう。


しかし、おやじさんもだてにプロのコーヒーオヤジを何十年もやっているわけではありません。
その後も何回か実験を繰り返したのですが、私のフェイントに引っかかることもあれば、落ち着いて
様子をうかがうこともあれば、と一進一退の攻防を繰り返しています。
常にそのような良きライバル関係でいられる素敵なお店です。